画塾や美大・藝大予備校って、一体何を勉強するの? 鉛筆デッサンの基本について
- sub06jloo
- 2024年2月14日
- 読了時間: 7分
更新日:2024年3月31日
『画塾』『美大・藝大予備校』『美術研究所』呼び名は様々ですが、これらは全て美術の基本を学ぶ学校のことを指します。
基本的には、中高生が生徒分布の大半を占めます。
よって、大人になってからこういう学校に通いたいなと思っても敷居が高いのが現状じゃないでしょうか。
画塾には通えないけど、一体中ではどんなことが行われているのか。
そんな方のためにこの記事では高校3年間、画塾に通った私がその内情をお伝え致します。
●校内の雰囲気
場所によるでしょうが、大体『厳しい』空気が漂っていることでしょう。
私も、何回泣かされたか分かりません(実際、合評(その日の最後に完成した絵を見せ合う時間)中にぼろくそに批判されて泣きながら発表したこともあります)。
それもそのはず。
受験でヒリヒリしている校内は、浪人生を中心に地獄のような空気で満たされています。
楽しく絵を学びたいという幻想は、捨てなければなりません。
実際、合評で『子どもの書いた絵日記のようだ』と酷評されて、次の日には来なくなった方を知っています。
まあ、夢を壊すようなことをたくさん書きましたが、結局は『校風によります』。
少なくとも私の通っていたところは、そういう校風だったということです。
●基本は『鉛筆デッサン』
色彩構成、木炭、クロッキー、彫刻など、画塾で行う課題は様々です。
ですがやはり全ての基本となるのは、鉛筆デッサン。
受験の課題でも、どのような学科であったとしても鉛筆デッサンは必須の課題となります。
私も鉛筆デッサンを学んだ恩恵は、今でも感じ続けています。
そこで、一度も鉛筆デッサンを学んだことのない人のために『基本のき』である技術をここで紹介したいと思います。
①立体の基本

画塾に入ってまず初めに描かされるモチーフ(描く物)は、『球』、『円筒』、『立方体』でした。
これらを完璧に描ければ、鉛筆デッサンの全てをマスターしたと言っても過言ではありません。
まずは線で、ラフ(おおまかに描く線)を取ります。
今回は線を整えることはしませんが、本来であればこの後ラフの線を練り消しで薄くして清書します。
一つアドバイスですが、円筒の上の面や立方体の線の角度には注意が必要です。
視点の位置から手前の線ほど角度が強く、奥の線ほど角度が弱くなるようにします。
これは、一般的に『パース』と呼ばれる概念です。
一点透視や二点、三点透視図法など様々ありますが、覚えていると自然な立体が描きやすくなります。

次に、立体から地面に接地する位置の影を落とします。
『接地』は、デッサンをする上で非常に重要な概念です。
一枚の絵の中で、この接地の影の色が最も暗くなります。
色の暗さを1~10の10段階に分けるとするならば、接地は10の黒を入れると覚えておきましょう。
反対に0の白(白い紙の場合は、全く鉛筆を乗せない色)は、ハイライトに入れます。
鉛筆デッサンでは10の黒と0の白がちゃんと置けているかで、陰影の幅が決まってくるため接地はしっかりと入れるようにしましょう。
ただし物体が浮いている場合は接地が10の黒にはならないため、他の箇所で10の黒を置ける場所を探す必要があります。
次に、陰影の『陰』の陰を入れていきます。
光源の位置を設定したら、光の裏になる面を最も暗くしましょう。
そこからグラデーションをかけるように、徐々に明るさを上げていきます。
『陰』とは、曲面の丸みを表現する柔らかな陰のことです。
『影』とは、物体が光を遮ることによって出来る強い影で、いわゆる『落ち影』と呼ばれる物です。
今回の場合は、物体が床へ落ちる光を遮っているため床に落ち影が発生しています。

赤く塗った部分について、解説します。
この赤く塗った部分は、『形の変わり目』といって少し暗くして面の切り替わりを強調するべき部分です。
角度が急激に変化している部分を目安に、鉛筆を入れると良いでしょう。
またこの部分は、最も質感が目立ちやすい部分でもあります。
特にこういった、明暗の変わり目の部分はしっかりと質感を描き込みましょう。
逆に、それ以外の部分の描写は省略する必要があります。
質感を満遍なく描いてしまうと、絵の全体がうるさくなり何を伝えたいのか分からない絵になります。
余談ですが、鉛筆デッサンによくある誤解として「見た物を、そのまま描けば良いのでしょう?」という意見があります。
それが、違うのですね。見た物をそのまま描くことは、出来ません。
3次元空間の物を2次元に持ってくるというのは、元々無茶を伴います。
多少嘘をついてでも、『それらしく』見せる努力が必要なわけです。
『嘘』という言葉をネガティブに捉えた方もいると思いますが、これは『狙い』と呼ばれる物と同義です。
そして『狙い』とは、イラストレーション分野に置いては最も重要視されている概念でもあります。
モチーフに対する性癖のようなものと捉えると、分かりやすいかもしれません。
「この部分の曲線が、たまらないんだよね」
「金属の映り込みが、たまらなく芸術的」
『私には、こう見える』それが、美術の本質。
少なくともとても重要な考え方であることは間違いありません。
そして、その『狙い』を存分に表現して下さい。
それがあなたの絵の魅力となり、『伝わる絵』を描く上での第一歩です。

青く示した部分の説明ですが、この部分は背景と区切りをつけるための明暗です。
鉛筆デッサンでは、基本的に線画は残しません。
現実世界には、線という概念が存在しないからですね。
線というのは、脳が作り上げた虚構であることを理解する必要があります。
ちなみに背景が暗かった場合は、立体側を暗くするのではなくむしろ背景より明るくして区切りをハッキリさせましょう。

ここまで立体を塗ってきましたが、鉛筆を動かす方向には注意を向けていましたか?
鉛筆を動かす方向は『タッチ』とも呼ばれ、面の向きを表現する上で非常に重要な概念です。
基本的にタッチは、面に沿って並行か垂直方向に入れるようにしましょう。
さもなければ、面はガタガタに見えてしまうことでしょう。

それでは、本格的に『描き込み』を行っていきましょう。
鉛筆デッサンの場合は、細く硬い鉛筆に持ち替えて細かく描き込んでいきます。
これはデッサンの基本なのですが、紙には耐久力があります。
初めから細く硬い鉛筆でガシガシと塗っていたら、最悪の場合紙が破れてしまいます。
そうならないためにも、最初は太く軟らかい鉛筆(2B~Bぐらい)そこから細く硬い鉛筆(4Hぐらい)に持ち替えて描き込んでいくのが良いでしょう。

反射光についても、説明しておきます。
分かりやすいように、床を赤色にしてみました。
床に限らないのですが、近接する物体は影響を受け合います。
今回の場合、赤い床から反射した光が物体にぶつかることで立体に赤い色が加わり少し明るくなっていますね。
その他にも、照明の色によっても物体の色味というのは複雑に変化します。
りんごは、赤い。
こういった思い込みは、捨てましょう。
環境によっては、りんごは様々な色に変化するのです。

いよいよ、最後の工程です。
ティッシュや指で、奥に引っこめたい部分を擦りましょう。
これはいわゆる『ぼかし』という技法です。
これまで加えてきたタッチをぼかすことによって、その部分が奥に引っ込みます。
練り消しで、少し立体の輪郭を明るくするのも効果的です。
ただし、輪郭がぼやけすぎないようにしましょう。
あくまで背景との境界は曖昧にせず、明るさだけが調整されるようにします。
ぼやけすぎた場合は、硬く細い鉛筆で境界を補いましょう。
いかがでしたでしょうか……?
実際には、画塾で学ぶことはこれだけではありません。
ですが、これ以外のことは全てこれまで話してきたことの応用です。
デジタルでもアナログでも、絵を描き続けていればいずれ気づくことの出来ることばかりです。
画塾に通わなかったことに負い目を感じている方もいるかもしれません。
それでも悲観せず、真摯にモチーフと向き合うことに集中して下さい。
美術の本質は、見ることです。
視覚情報でなくともあなたが美しいと思ったもの、その心を大事にして下さい。
きっとそれが技術のみならず、あなたの世界を表現する近道となるはずです。
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